当院は心臓が専門ということもあり、高齢者の心不全患者さんが多くいらっしゃいます。大学病院をはじめ、病院から紹介されてきた患者さんも大勢います。1回以上、入院歴のある患者さんも多く、またその大多数は高齢者になります。
当院では高齢の心不全患者さんについては一定の状態に達した場合、入院をお勧めしています。「一定の状態」とは、辛い程度の息切れ、呼吸苦等の自覚症状が出てくる前の状態ということを意味します。データ上は悪化傾向にあり、もしかしたらまだ外来で治療を継続できる「かもしれない」が、そう遠くない将来、状態が悪化して緊急入院になる「かもしれない」状態を言います。患者さんの自覚症状からすると「まだそんなに悪くは感じない状態」ということになります。そのため入院しても、安静、食事療法、適切なリハビリをする「だけ」の状態になります。入院した患者さんからすると家にいるのと変わらないじゃないかと思う方もいらっしゃいますが、実際には「食事の中の塩分量」が大幅に違います。それにより入院している「だけ」で心不全は改善します。
でも、だったら入院が絶対に必要なぐらい悪化してから入院しても同じだろう!と思う方がいるかもしれませんが、確かに治療の方向性は同じになりますが、入院期間、予後は大きく違います。
絶対入院を要し、酸素投与や強心剤を使うような状態を「非代償性心不全」といいますが、この状態になると先に述べた通り、「酸素投与」をして「利尿剤」「強心剤」の点滴等を24時間して治療を開始します。その間、食事・水分摂取は止まり、トイレ移動もできなくなり、フォーレと言って、尿を排出する管をいれて対応し、その期間は2-3日~1週間以上になります。その間、食事はとらず、移動もなくなるため、嚥下能力の低下、運動能力の低下をきたし、結果として「食べられなくなる」や「寝たきり」になるリスクが増えます。
もしかしたら入院せずに外来で治療をしてまた息切れ等もない生活に戻れた可能性もありますが、一度非代償性心不全になると入院期間はより長くなります。そのため、非代償性心不全になる手前で入院加療をすることが重要になると考えています。また非代償性心不全になると、基本緊急入院となるため、病院のベッドが空いているかどうかも問題になります。そして非代償性心不全の場合、循環器専門医のいる病院以外はなかなか受けてもらえません。そのため搬送先がないということも生じます。新潟市内の病院はベッドが潤沢とは言えず、当院でも緊急入院の病院への依頼は断られるケースは少なくありません。実際、当院でも非代償性心不全の入院依頼に6か所の循環器専門医のいる病院を断られた経験があります。その間、ずっとクリニックで酸素を投与をし続けましたが、酸素ボンベがカラになる寸前で受入れ病院が見つかり、救急隊に来てもらい引き継げたということがありました。そのくらい入院先を見つけるのが困難になる場合があります。
また非代償性心不全になる前の段階での入院の場合、リハビリが重要になること、また大学病院をはじめ3次救急を行う病院の入院適応にはならないことがほとんどです。そのため、当院では循環器専門医がいて、かつ、早期にリハビリを開始し、心不全を上手に改善してくれる病院にお願いすることになります。
非代償性心不全になる前の入院だと、病院にお願いをして、入院までの日程調整が可能になるケースもあり、緊急性はないため、数日程度の猶予があるため、患者さんにとってもメリットがあることもあります。
当院では高齢者の心不全は悪化傾向が続く場合、早めの入院加療をお勧めしています。これにより長期入院にならず、また早期からのリハビリで筋力低下もきたさずに元気に帰ってくることが可能になっています。